昨年末は、残酷な事件が相次ぎました。
広島での小1女児殺害事件、栃木の小1女児殺害事件、大阪の姉妹殺人事件、学習塾での小六殺人事件など。
とくに、栃木の小1女児殺害事件については、残酷なやり方で驚きを与えましたが、いまだに犯人が見つかっておりません。このような事件がなぜ発生し、また、どのようにしたら予防できるのか?というのは、言うまでもなく重要な問題です。
まず、私の勘違いについて一言。
私は、長らく、ITを利用することで犯人の一般像の分析ができるのではないかと、考えていました。具体的には、私が以前関わったことがあるデータマイニングの仕組みなどを使って、過去の犯罪データをインプットすることにより、犯罪のパターン分析や犯罪者のモデリングができるのではないかと思ったのです。
とくに、動機が不可解な連続殺人や、いわゆる快楽殺人のようにみえる残酷な殺人などについては、かなりのパターン分析をしないと、共通性が見出せないのではないかと考えていたのです。
そして、そのような複雑なパターンを分析するには、コンピュータ上の処理が必要ではないか、と。
ところが、実際には、これらの分析は、すでにアメリカで、ほぼ完了していることに気づきました。有名な「プロファイリング」の技術です。
「FBI心理分析官」などを読んでみると、今回の栃木の事件のような残酷で意図が理解不能なケースでは、モデルとしての可能性はほぼ2パターンに限定されることがわかります。
著者は、それを犯行において、秩序が見られるかどうかによって「秩序型」「無秩序型」と呼んでいます。
1.無秩序型の特徴
(生い立ち)
無秩序型の犯罪者は、もともと育てられた環境が悪く、家族にも精神病やアル中の患者がおり、自分の感情を外部に表現できないままに成長。病院などに通院・入退院を繰り返しています。社会に対し、強い劣等感もあります。
(犯行の特徴)
場当たり的で、計画性がなく、凶器もその場にあったものを使い、遺体を隠すこともありません。本人は自分の制御ももともと難しいため、車を使うこともありません。
2.秩序型の特徴
(生い立ち)
親の仕事も安定しており、むしろ甘やかされていた。怒りも外にだし、ある意味社交的で口もうまい。自分は能力があるのに、なぜ社会や女性は認めないのかという怒りをもっており、警察や精神科医をばかにしています。
(犯行の特徴)
凶器は事前に選び、犯罪にも車を使うなど計画的で、特に、犯罪を繰り返すたびにやり方は巧妙になります。被害者をおびえさせ、支配することに価値を見出すため、被害者が身につけていたものを戦利品として持ち帰り、後で思い出すのに使いますし、また、捜索ボランティアに加わったりさえします。
つまり、一見、同じく動機不明な残酷殺人であっても、無秩序型と秩序型では、まったく違う犯罪者なわけです。
ただし、共通しているのは、本人においては、もう何年もの間、夢想し続けてきた犯行であること(おそらく、少年時の頃から)。もう一点は、どちらにしても矯正不可能で、何度でも繰り返すということです。
これらの点は、年末の他の事件とも共通しています。広島市の事件の犯人はかつて3度事件を起こしており、姉妹殺人事件の犯人は、以前母を殺したときの感触が忘れられなかったといいます。参考(逮捕しなければまたやった:読売新聞記事へのリンク)
今回の栃木の事件は、間違いなく「秩序型」に属します。特殊な凶器の選定、車の利用、以前から声をかけていた可能性など・・。
さて、動機という点についてです。警察では動機をはかりかねているそうですが、アメリカの例でみていると、このタイプの殺人の場合、まさに、子供の頃からの妄想の実現です。詳細は「FBI心理分析官」など見て欲しいのですが、おそらく10年以上、空想してきたのでしょう。このタイプの犯人の場合、性的な興奮というものは、このような殺害でしか得られないものなのです。そして、その空想を長引かせるために、戦利品として衣類などを持ち去っているわけです。
でも、なぜ、子供の頃からそのような空想を人はもちうるのでしょうか?
単純に比較してはいけないのですが、私が連想したのは、ノーベル賞学者コンラート・ローレンツの動物行動学でした。彼の研究では、成長の過程で、適切な時期に適切な刺激を受けられなかったために、正常な性行動がとれなくなった動物(カラスなど)の例がいろいろのっています。
「訓練環の欠如が起こると、ほとんどの場合行動連鎖の切断が起こる」
「(主として飼育状態が原因と思われる獲得的な習慣が、つがい形成にはおそらく絶対的に必要な儀式的行動の解発を完全に阻止してしまった例を、一羽のワタリガラスの雌で観察するという、あまり好ましからぬ経験をした」
(動物行動学より抜粋)
また、そのバリエーションのひとつとして、攻撃衝動が異常に強まってしまった例もあります。
人間に限らず、動物とは、一般に、成長期にうまくいかないと、いろいろな異常行動につながってしまうようです。
一方、成長期にうまくいったらいったで、もっと普通の意味での暴力に手をそめるようになるのですが・・(今回の論点とは異なるので省略しますが、参考文献として、「男はなぜ暴力をふるうのか・・進化から見たレイプ・殺人・戦争」があります。)
さて、「FBI心理分析官」では、異常殺人の増加についてこう書いてあります。
「おそらく大昔から現代にいたるどの時代にも、無秩序型殺人犯はある決まった割合で社会に存在したのではないかと思う。こうした完全に正気を失った犯罪者は、何かの拍子にみさかいなく人を殺す。打つ手はあまりない。いつの世にもこうした殺人犯はいる。しかし、近年私が切実に感じるのは、秩序型殺人犯の数と割合が増えているということだ。社会が流動的になり、大勢の人を一度に殺せる武器が手に入れやすくなるにつれ、反社会的な人物が残忍な殺人の空想を現実のものにする機会が増えるのだ」
つまり、今回のような事件が増加しているのは、秩序型殺人犯の増加のためであり、それは社会の流動化の影響の可能性があるということです。先ほどの動物行動学の例でいうと、適切な時期に適切な刺激を受けられない人口が増加してきているのでしょう。もっとも、社会の流動化とは何を意味するのか、踏み込むと話が長くなるので今回は省きますが。
ともかく、アメリカで60年代~70年代以降にこのタイプの殺人事件が増加したように、日本も30年遅れでその傾向が強まっているのでしょう。
対策としては、犯罪の繰り返しに注目し、前歴者や不審者の目撃情報を共有したりといった、最近よく行われている方法が有効で、各地の警察ではそれらの情報をいろいろ提供しはじめています。また、小学生の通学の送迎も増えているようです。
ただし、送迎はともかく、小学生の行動全てを大人が監視するというのも、難しいのではないでしょうか。
この手の犯罪者の特徴は、早期(幼少期)から特徴が明確に出てくることと、成人では矯正も難しいことです。
本当は、犯罪者の成長期における特質が、現状程度にプロファイリングできているのであれば、むしろ家庭環境、親族、学校での状況、病気暦などに注目して、児童カウンセリングを利用した対策をたてるなどの必要があると思います。
個人情報保護の観点もあり、簡単にはいかないとは思いますが、抜本的には、幼児期の環境から中学時代くらいまでに焦点をあてて、情報の収集と治療を行える体制が必要ではないでしょうか。
一言でいうと、抜本的に、幼児や小学生を守るためには、単に外部(現在の大人)から守るだけではなく、その幼児や小学生の中から将来の殺人者も出現するということを踏まえる必要があるということです。単に保護の対象として幼少児を守るだけでなく、なぜ、それらの幼少児のなかから将来の犯罪者が発生するのか?その特質は、すでに小学校低学年の頃にはあらわれており(おそらく幼稚園児のころにも)、見る人がみればわかるはずのものなのです。
(参考)上で引用した本です。動物行動学は無いようなので、入門編の「ソロモンの指環」をのせました。FBI心理分析官は異常犯罪に関する、プロファイリングの本です。「男はなぜ暴力をふるうのか」は、ゴリラの殺人(殺ゴリラ)やチンパンジーの戦争など、人間とほぼ同じ遺伝子をもつ動物の攻撃衝動をみることで、人間の犯罪や戦争をとらえなおそうとするものです。
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